高速道路の路面は雨で黒く光り輝いていた。
その下を走る一般道、大通りから延びる坂を上ると、公園の入り口が見える。
公園の外周路から脇道に逸れた先に、オンボロのベンチが横たわっていた。
水銀燈の光を避けるようにベンチに座るのはコウヤ、そしてマサカズ。
公園の時計は、ちょうど9時を指していた。
大樹の下で雨を避けながら、2人は公園のどこかでギターを弾く音を聴いていた。
その姿は見えないが、まだ若いアマチュアミュージシャンだろう。
時に優しく、時に吼えるようなその歌声を聴きながら、2人は出逢った日から今日迄を振り返り語り合っていた。
1999年、洞穴バーで出会った2人。互いに無口だったが、目が合った瞬間に「音で語りあえる」と互いに確信した。しかし実際は、最初のセッションでピッチが半音ほどズレていたことは忘れられない思い出の一つとなっている。
解放という光の中で出逢い、その形を見つけることだけを願って生きてきた2人。「成功」という光に踊らされ、色を消される中、2人の夢の蕾は枯れ果てた。時は流れ、多くのものを捨て、多くの人と出逢うなかで再び、自分たちの音を追うことが2人の道となった。
「僕らは、変わらなかったんじゃない。変われなかっただけだよ。」
出逢いから今までを振り返り、マサカズは言った。
コウヤはこう続けた。
「だけど、僕らには音楽がある。」
2人には音楽があった。いや、音楽しかなかった。
そう、この唄のように。
公園の脇のパブの前には、銀色に輝くロータス・セブンが停められている。パブは繁盛しているようで、オレンジ色の光に包まれた明るい店内には、ツイードのスーツを着た紳士や、華やかなドレスのレディが談笑しているのが見えた。恐らく、パブの中からは公園の片隅に佇んでいる2人の姿など気づく由もないだろう。
マサカズはコウヤに語りかけた。
「懐かしいね、スーパー7。コウヤも乗ってたよね。」
当時、コウヤは漆黒のロータスに乗っていた。ガレージでキットカーを組み立て、自分の意のままに操る悦びを噛み締めていた。何かを支配し弄ぶことに疲れた時、コウヤはこの相棒と離別した。
「明るい所からは暗いところは見えないんだ。暗い所からはこんなによく見えるのに。」
徐にコウヤは、懐からペーパーナイフ程の長さの鍵を取り出しながらそう言った。その長い鍵には、ロータスのエンブレムが輝いていた。既に幾年も前に手放した愛車ではあったが、「最後の相棒」からの忘形見を、こうして常に肌身離さず持ち歩いていたのだ。
「暗い所にいたから見えたものもあったんだ。――そう、出逢えた人も。」
コウヤは呟いた。
マサカズは続けてこう言った。
「星も。」
既に雨が止み、遠くの歌声も消えた頃、空には満天の星が輝いていた。


