飲んだ後はいつも、マサカズは半ば千鳥足気味のコウヤを担ぎ上げるようにして、自分のアパートに運ぶのが役目だった。
片隅に置かれたギター。
煙草とソファ。
それだけの部屋 。
マサカズは何も言わずにギターを抱えた。コウヤがその音に身を任せるように歌い出す。まるで幼馴染みのように、2人は歌い、笑いあった。彼等は久しぶりに熱中した。
夢の中、それは夢中。
それはバーで飲み干したドライマティーニのせいかも知れない。しかし、そんなことは今、どうでもよい事だった。
勝手な決めつけと分かっていたけれど、「音楽は僕等自身のために作られたのだ」と思いこむことにした。
妄想でも幻想でも何でもいいや。
彼等の心がふぁぁっと言った。
真っ白。
耳に届く音、歌声。
あるのはそれだけで……解放だ。
セッションが終わって、彼等は虚脱の極みを味わった。
動けない。頭が日常に戻らない。
何かが変わってしまう。
もう僕らは元へは戻れないね。
彼等は、何千、何万というイメージを、傑作や駄作、大成功や大失敗、熟練や未熟という風に区分けしなかった。「今」が写っている曲だけを求めた。混沌としたイメージを混沌としたまま聴いてもらうことで、脳の中を切開するように「たった今」のイメージを見せようとした。ここから、「世界の無意識」が音楽として立ち現れると信じた。
「井の中の蛙は、井の中に居ながら、実は井の外、その全部とつながっている」
それを見せたい、見たい。
それだけを信じて、彼等はこの歌を歌い続けた。


