マサカズが常に追求しているのは、「伝える」ということだ。
「伝わりやすい形」を、彼なりのフィルターを通して彼なりに作ろうとしている。
個人的なことじゃなくても、悲しいことも嬉しいことも、愛する気持ちとか、自分の心から離れない感情のために音を選んで、言葉をはめる。その動作は以前と何も変わらないことに気付いた。
コウヤはグローバルな視点で世界を見つめ、心の対話を続けている。
McKINLEYの供養の旅を通じて、個人的な強い願いという原始の石塊を、世界の人々とのかかわりの中で、時に砕きながら、時に磨き上げながら、再構築する旅を続けていた。
彼もまた「伝える」ということを追求しているに過ぎなかった。
外への思考が強いコウヤと、内側に向かうことが得意なマサカズ。
滲み出る気持ちを精一杯の声にのせて、願いをこめて歌うコウヤ。
音が頭の中を流れ、ギターを持ってそれを形にするマサカズ。
――結局何も変わっていないんだ。
今はよくわからない。
一体何が始まっているのか、一体何を始めようとしているのか。
しかし、マサカズはサイドボードの引き出しを開けると、ホテルの外観のイラストが印刷されているレトロな便箋を一枚取り出した。
宛先は、そう。
石畳の街の片隅でしゃがみこみ、作業をしている男達。
老婦人が彼らの目の前で立ち止まると、男達に駅までの道順を尋ねて来た。
駅?すぐそこに見えるじゃないか。
「あぁ、この道をまーっすぐ…そうね、3分くらい歩くと駅に着きますよー!」
1人の男が老婦人の耳元に口を近づけて大きな声で答えた。老婦人は柔らかい微笑を見せて、その2人に背中を向けて歩きはじめた。
さぁ、ようやく準備完了だ。始めようか。
つい先ほどまでストリートライブの準備をしていた、ギターを抱えた背の高い男と、色黒の凛々しい顔をした男の2人は、どこへ向けるともなく、敢えて言うなら空気に歌を溶かすように、この歌を歌い始めた。
老婆の背後から、歌が降り注ぐ。
握りつぶしたような切ない歌声が、老婆の中に入って、留まって、何かを隆起させた。
老婆は思わず2人の元へ戻った。
「…あなた方、お名前は何と?」
「…I’m “McKINLEY”。」


