復活

「…駄目だ」
今度もコウヤは歌うのを中断すると、マイクを押しやり、マサカズの方を振り向くように首をひねりながら、そう言った。
「マサカズ。ちゃんと弾く気がないなら、今日のところは出て行ってくれ」
コウヤはそう言うと、ソファに身を投げ、ローテーブルに足を放り出した。

「僕は…」
そう呟くと、マサカズはギターのネックを握りしめたまま沈黙した。

「昨日までと全然違うじゃないか」
コウヤが再び言った。

――いつから変わってしまったんだろう。
マサカズは自分自身に問いかけた。コウヤとこの小さな町で出逢い、別れ、そして再びここで暮らし始めた。しかし、時間が経つにつれて、2人の間に微妙な変化が生じ始めていたようだ。

――いつから変わってしまったんだろう。
コウヤも心の中で問いかけていた。彼はマサカズが変わった瞬間を思い出そうとしたが、それは叶わなかった。それは突然のことではなく、時間と共に徐々に起こった変化だったからだ。

ピックを持つ右手から視線を外し、マサカズはコウヤを憂うような目で見つめた。
そんな表情で見つめるマサカズに、コウヤはため息交じりにこう言った。
「その目はどうしたんだよ。そもそもマサカズが…」

言葉を聞き終えることもなく、マサカズはピックを床に投げ捨て、部屋から出ていった。

マサカズがアパートの屋上で横になっていると、携帯電話が鳴った。姉からだった。
「父さんが死んだわ」
「え?」
「車が事故って…救急車で運ばれたけど…たった今、病院で息を引き取ったわ」

親父が死んだ?あっけないものだ。病院に急いで向かう。
しかし、病院ではもう何もすることは残されていなかった。
三日後、葬儀が行われる。マサカズはその準備のために、久々に父の住む家にやってきた。

何年ぶりだろうか。
マサカズは、父の部屋の棚からレコードを取り出し、プレイヤーにセットした。父の好きだったこの曲がスピーカーから流れてきた。この曲を最後に、McKINLEYは活動を休止した。コウヤの印象的なマラカスがフィーチャーされたあの曲。強く激しく畳み掛けるようなマラカスのリズム。この時はマサカズのギターもバッキングに回る。ブレイクの後、いよいよ最大の見せ場だ。変拍子の難しいリズム。フィルインの嵐。こんなマラカスさばきはコウヤ以外出来ないだろう。

この曲は何かを昇華するような演奏だった。そんなところが父のお気に入りだったことを、マサカズは思い出した。

曲が終わると針を上げ、もう一度最初から聴いた。だんだん身体がリズムを取っていた。
曲に合わせてギターを刻むように腕を振る。そうして何度も聴いているうちにマサカズの中に眠っていた何かが呼び覚まされた。

今までだって、決して何事も無かった訳じゃない。辛い思いも悲しい思いも、全て音にぶつけてきた。感動や喜びだけじゃない。涙も怒りの感情も全て音に昇華させて、世界中に多くの笑顔を生んできた。その笑顔に救われて、コウヤと2人で乗り越えながらここまできた。

2人で乗り越えたんだ。
2人だから乗り越えられた。
だから、今がある。

翌日、コウヤがスタジオに行くと、マサカズの姿があった。コウヤは言った。
「父さん、残念だったな…。いいのか?こんな所にいて」
それには応えず、マサカズは淡々とギターのセッティングを続ける。あっけにとられるコウヤ。

そしてマサカズは、大音量でギターを弾き始めた。父に捧げるギターソロ。
ギターソロに続ける形でコウヤがタンバリンで演奏に加わった。

McKINLEYの久しぶりのギグが終わった。

「よし次の曲いくぞ」
コウヤがそう言った。
バンドは再びひとつになった。