出逢い

出逢う前の2人は傲慢だった。

優柔不断で、煮え切らなくて、虚弱で、希薄で、軽薄で、姑息で、孤独だった。

胸を張って自信があることなんてないし、自分の持っている能力に何の根拠も結果も残していなかった。

被害妄想が強いくせに罪悪感に欠け、ばれていないと思いこんでいる嘘をいくつもついた。

自由でありたいと願う自分に拘束され、無意識な呪縛を受けていた。

欝蒼とした日常の中で、彼等が偶然にも足を運んだのは同じ洞穴バーであった。

コウヤは背中を丸めたままその洞穴――『J』へ向かった。

相前後してマサカズが中へ入ると階上に促された。

鉄の階段を上る途中、微かな歌声が聞えてマサカズははっと我に返った。

そう、音楽である。音楽があるじゃないか。

マサカズはその声の主を探し求めた。声の主はフロアの片隅で半ば自棄気味にグラスを傾けながら、この歌を口ずさんでいた。

歌詞と状況のリンク。

マサカズは「とりつかれてるんじゃないの?」と思う程酔いしれた。何で君はこんなに大きく見えるの?それが『解放』なんだよね。

心の中で、その声の主にそう呼びかけてみたりした。

酔った勢いに身を任せつつ気持ち良さそうに腰を振り、足を上げ、口を開いて、歌う。時に眉間に皺がよるんだけれど、それは苦痛の歪みじゃない。あまりにも悲しいと涙も出てこないのと同じに、あまりの心地よさ、懸命の表出があった。

声の主、コウヤに「来てくれてありがとう」と言われて、マサカズも笑った。マサカズも、「来てくれてありがとう」と言って、彼等は共にJを出た。

風は生暖かく、肌にしっとりからんだ。外は夜も白みはじめていた。

こうして、1999年12月1日は彼等のもう一つの誕生日になった。